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飛距離と角度

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2008.11.12

名前変換無しのブログ用王様連載【call a name】02話です。
今回の話しで王様が出てきます。
隠してあるので読みたい方は「つづきを読む」で開いてください。


call a name 02









ベッドに何かが置いてあるのに気付き、私は何の迷いも無く手に取ってみる。
それは随分前から子供の間で流行っているカードゲームのカードだった。
「・・・私こんなの持ってたっけ?」
裏側は茶色で渦を巻いており、表に返してカードを一枚一枚眺めてみた。
カードゲームはよく分からないけど、兎に角沢山の種類のカードがあって、
枚数にしたら100枚くらい? ちゃんと数えてないから分かんないけど。
「天使族・・・? このカードは通常召喚できない。 ・・・?」
私はいつの間にかカードテキストを読んで吸い込まれるように没頭してしまい、
気が付いたら夕方になっていた、おかしいなぁ、カードなんて初めて見るのに・・・。
今まで興味すら沸かなかったのになんでだろう・・・。
「でも・・・」
分かることが一つだけある、このカードが声の主の手掛かりになるのだと。
それだけじゃない、不思議なことにそのカードを眺めるだけで、いや、持っているだけで、
何だか心が暖かくなってくるんだ。
「・・・」
突然若返ってしまった身体、平凡な毎日が退屈で逃げ出したかったのに、
いざそうなると身動きが取れなくて泣きそうになるなんて・・・。
誰でもいいよ、この現状をどうにかして!!!



元々分かっていたことなんだ、誰かに助けを求めたって、
結局は自分が動かなきゃ何も変わらない。
自分でなんとかするしかないんだ。
私はカードを握り締めてカードショップに向かった、
もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれないし、
カードに詳しい人が居ればカードのことを聞く事だってできるわけだ。
震える足が私の不安を伝えているかのようで、着替える服を掴む手まで震えていた。
「何よこのくらい・・・!」
溢れそうになる涙を必死に堪えて、私は少し大きめの大人の服に着替えた。
ブーツが大きい。 ブラもパッドが必要なくらいぶかぶか。
ジーパンなんてベルトが無いと腰で履けない。
何もかもが私を子供だと言われているみたいで、
こんなに惨めになるなんて思ってなかった。
幸い、身長だけは変わっていなかった、学生の頃から身長は伸びて居なかったから。
歩くたびにぱかぱかとブーツが鳴る。
大人だった私は毎日同じような服装で、同じ服を着ているのに・・・。
せっかく若返ったんだから、若さを満喫しようなんて歓楽的になれたらいいのに。
どうして私はいつも深く考えてマイナス思考になっちゃうのよ。
ダメだった分かってるのに、泣いたら負けだって分かってるのに・・・。
カードショップの前で立ち止まり、涙が零れない様に空を見上げる。
カードを握った手が震えてる。
コートのポケットに突っ込んだ左手がカードを握り締めているのに、
その感触が伝わってこない、震える感触だけが残る。




神様、もし本当に居るなら元に戻してよ。
平凡な毎日だって構わないから、元の大人に戻してよ。
知らないカードだけ渡して放り出すなんて、いい加減すぎじゃないの?
あの声の主が神様とは思えないけど、今の私は誰でもいいから縋りたい気分だった。
誰でもいい、この呪いを解いて・・・。




「お前、そこに突っ立って何してるんだ?」
空を見上げていた私に男の子の声が聞こえて、思わず顔を向けたら涙が零れた。
悲しみだけじゃない不思議な涙は、今の私に理解できるものでは無かった。
泣いている私を見て、男の子はちょっとビックリして言葉を失う。
男の子は学生のようで、学ランを着ている。
奇抜な髪型からは想像もできない落ち着いた雰囲気。
なにより、その鋭い瞳が恐怖さえ感じた。
この涙は、悲しみと恐怖の涙なの?
そんなはずないよ、たかが中学生くらいの男の子を怖がるなんて有り得ない。
「あ、あの、カードのこと知りたくて・・・」
カードと言った途端、男の子は嬉しそうに目を細めた。
私はポケットから震える手で握り締めたカードを取り出して、男の子に突き出す。
「キミ、カードに詳しい?」
「ああ」
「じゃあ、教えて欲しいんだけど」
「その前に・・・」
男の子は私より少しだけ目線が高い、
ちょっとだけ見下ろして困った顔をしながらポツリと呟く。
「涙くらい拭いてくれ」
例えば、ハンカチを差し出すとか。
指で涙を拭ってくれるとか。
或いは流れる涙を無視してくれるとか。
そんなことは現実には起こらない。
男の子は困った顔のまま私を見下ろして、言葉をどう紡ごうか迷っている。
そっか・・・、誰でもいいなんて思ってたけど、
それって結局誰かに甘えてるだけなんだよね。
私はコートの裾で涙を拭って彼を見上げる。
「ごめん」
「・・・謝ることはない」
どうして泣いていたのか、どうして謝るのか、理由は聞かない。
その優しさが嬉しかったから、私は笑う。




心に広がる暖かさは、握ったカードのせいだけじゃなかったのかもしれない。







続く・・・
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