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飛距離と角度

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2008.11.15
名前変換無しのブログ用王様連載【call a name】05話です。
少しですがデュエルシーンがあります。
隠してあるので読みたい方は「つづきを読む」で開いてください。

 

 


call a name 05

 

 

武藤君が二重人格っていうことを知ったのは、知り合ってから随分経ってからだった。
正確には二重人格じゃなくて、心にもう一つの魂が居るってことで、
本当の武藤遊戯君はちゃんと居るらしい。
そして私が一番に出会ったのはもう一つの魂の武藤君だったのだ。
現在私とデュエルしているのは本当の武藤君。
柔らかい笑顔と大きな目が印象的なカワイイ男の子だ。
「アテナちゃんのデッキはパーミッションなんだよね、
 だったら神の宣告は3枚積んでもいいと思うよ」
何故か私はアテナちゃんと呼ばれている。
名前を聞かれて答えなかった私が悪いと言うか、
どう答えていいか悩んでいたら、もう一人の武藤君に勝手に名前を付けられた。
確かに本名を言うよりいいかもしれないし、ちょっと助かってたりする。
でも、呼ばれると恥ずかしいのは何故だ・・・。
「神の宣告1枚しか持ってないよ?」
「じゃあ2枚あげるよ」
「え・・・いいの?」
「いいよ、確か20枚くらいあったはず・・・」
20枚って大量すぎ!!
私の使っている天使デッキはパーミッションと呼ばれているらしい。
詳しくは分からないけど、カウンタートラップに依存しているモンスターが多いのだそうだ。
だけど、トラップだろうとモンスターだろうと、
ちゃんと理解してなきゃ回すことなんてできない。
発動タイミングやチェーン、スペルスピードなど、覚えることが沢山すぎて頭が破裂しそう!
不思議なことに、今まで興味も無かったカードゲームなんだけど、
武藤君やもう一人の武藤君、お友達の城之内君や杏子ちゃんのデュエルを見ていると、
とっても楽しくて私もデュエルをしたくなってくることだ。
自分のデッキに慣れるという意味でも、デュエルはやってなんぼのものらしい。
負けたっていい、数ターンで瞬殺されてもいい、
そこから何かを見出して改善すればいいのだから。
楽しい気持ちとは裏腹に、私は一人悩みを抱えていた。
それは・・・。
今日も鏡の前で立ち尽くす。
武藤君達とデュエルが終わって、日が暮れる前に家に帰ってくる。
皆学生だし平日だから、夜遅くまで遊ぶわけにはいかない。
けれど、私は今会社には行ってないし、学生でもないから、
皆と会わない時はずっと一人でアパートに篭っているの。
夕飯を食べてお風呂に入るため、洗面所で服を脱ぐ。
気持ちしか無い鏡の前で、私は変わってしまった身体をぎゅっと抱き締めた。
涙が溢れそうになる。
そう、私の身体が若返ってから身体の変化は無く、ずっと戻らないまま・・・。
楽しそうにデュエルをしている皆にどうしても馴染めないのは、
きっと一歩引いてしまっているからだろう。
私は違う、普通じゃない、本当は大人なのに身体は学生に戻ってしまって、
思考や感覚、周りを見る目線、何も変わっていないと信じたい。
湯船に入って膝を抱える。
ぽろぽろと零れる水がお風呂の中に沈んでいった。
泣くのはここだけ、涙が溢れても顔を洗って誤魔化せる。
本当は我慢してるつもりでも、勝手に溢れてくるんだから手に負えない。
「いつになったら戻れるの・・・」
結局有給は全て使い果たしてしまい、会社を辞めることになった。

 

「神の宣告発動、ライフを半分支払う。 キミのトラップの発動を無効にして破壊。
 カウンタートラップが発動したことにより、
 場に居る天使族モンスター3体を生贄に捧げ、ボルテニス召喚。
 ボルテニスの効果発動、生贄に捧げたモンスターの数だけ相手のカードを破壊できる。
 真ん中のそれと、モンスター2体破壊しとく」
「・・・」
相手をしてくれているのはもう一人の武藤君。
無言で私が破壊したカードを墓地に置く。
けれど、私はもう一人の武藤君を見れなくて、フィールドに視線を落としたまま。
「アテナ」
「・・・ん?」
そうだった、私はアテナって呼ばれてるんだった。
「何かあったのか?」
「・・・・・・何もないよ」
「なら、何故顔を上げない」
「・・・」
やっぱり、バレてたか・・・。
どっちにしろ、何かあったとしても彼に打ち明けるつもりはない。
だって、彼には関係無いことだし、私はただあの声の主を探すだけ。
それなのに・・・。
私は今のままでいいとさえ思い始めてる。
皆とデュエルをしていれば楽しいし、ずっとこの時間が続けばいいのにって思ってる。
当初の目的を忘れてデュエルに没頭してるなんて本末転倒もいいところ。
でも・・・、デュエルをしていれば全てを忘れて集中できる、それが心の拠り所。
「やめだ」
手札をフィールドに投げて、両手でカードを掻き集める。
「言っておくが、そんな顔したアテナとデュエルして勝っても嬉しくない」
「・・・」
勝つこと前提なの? 確かに私はキミに一度も勝ててないけどさ。
突き放す言い方をする彼の顔を、益々見れなくなってしまった。
年下なのに、私の方が人生経験豊富なのに、
たったそれだけのことで胸が痛くなるなんて考えられない。
「・・・言えないことなのか」
「・・・」
また、涙が溢れそうになる。
いっそのこと全てを晒け出してしまおうか。
そんな甘えが見え隠れする。
「アテナは名前も悩みも言ってくれないんだな」
「そんなつもりは・・・」
「俺も相棒も、城之内君も杏子も、皆アテナのことを友達だと思ってる。
 打ち明けてくれないのは、俺達を信用していないからだろう?」
「違うよ!」
あまりの言い方に私は顔を上げ、彼を睨むかの勢いで言ったけれど、
彼の言っていることは正論すぎた。
冷たい言葉とは違い、彼は何故か少し笑っていた。
「やっと顔を上げたな」
どうして・・・そんなに嬉しそうなの?
そんな顔をされたら、全てを吐き出してしまいそうになる。

 


彼と出会ってしまったことは、間違いだったのかもしれない。

 

 

 

続く・・・

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